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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
Read 次郎物語 (じろうものがたり) by 下村 湖人 (しもむらこじん) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 117,781 characters · 235 screens
次郎は、最初のうち、その笑い声をきくと腹が立った。しかし、何度もきいているうちに、その声に聴き覚えがあるような気がして、じっと耳をすました。
(そうだ、朝倉先生の声だ。)
彼は、そう思うと、朝倉先生が生徒監の一人であり、自分に話すことがある、と言われたのもそのためだったということが、はっきり意識されて来たのである。
彼は、もう、隣室とのあいだの戸がひらくのが、待遠しくてならなくなった。
しかし、戸は容易にひらかなかった。やっとそれが開いたのは、午後の時間の用意の鐘が間もなく鳴ろうという頃だった。
はいって来たのは、小田先生と朝倉先生の二人だった。次郎は、うろたえたように立上って、朝倉先生に敬礼した。すると、朝倉先生はにこにこしながら、
「本田は、よくいろんな変った事件を起すんだね。」
と、無造作に椅子をひいて、腰をおろした。それから、
「まあ、かけたまえ。」
と、次郎にも腰をおろさせ、
「しかし、今度は、室崎の時とはちがって、君の方が机もろともかかえ出されたそうじゃないか。さすがに、君も面喰らったろう。」
朝倉先生は、そう言って大きく笑った。それは、まるで取調べをするとか、訓戒をするとかいった調子ではなかった。