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うたあんどん

歌行灯

泉 鏡花

Read 歌行灯 (うたあんどん) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 36,094 characters · 72 screens

Aozora Bunko

が、しかし心のままにしなよ、決して勤を強いるじゃないぞ。」

「あんなに仰有って下さるもの。さあ、どんな事するのや知らんが、まずうても大事ない、大事ない、それ、支度は入らぬかい。」

「あい、」

とわずかに身を起すと、紫の襟を噛むように――ふっくりしたのが、あわれに窶れた――頤深く、恥かしそうに、内懐を覗いたが、膚身に着けたと思わるる、……胸やや白き衣紋を透かして、濃い紫の細い包、袱紗の縮緬が飜然と飜ると、燭台に照って、颯と輝く、銀の地の、ああ、白魚の指に重そうな、一本の舞扇。

晃然とあるのを押頂くよう、前髪を掛けて、扇をその、玉簪のごとく額に当てたを、そのまま折目高にきりきりと、月の出汐の波の影、静に照々と開くとともに、顔を隠して、反らした指のみ、両方親骨にちらりと白い。

また川口の汐加減、隣の広間の人動揺めきが颯と退く。

と見れば皎然たる銀の地に、黄金の雲を散らして、紺青の月、ただ一輪を描いたる、扇の影に声澄みて、

「――その時あま人申様、もしこのたまを取得たらば、この御子を世継の御位になしたまえと申しかば、子細あらじと領承したもう、さて我子ゆえに捨ん命、露ほども惜からじと、千尋のなわを腰につけ、もしこの玉をとり得たらば、このなわを動かすべし、その時人々ちからをそえ――」