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うたあんどん
歌行灯
泉 鏡花
Read 歌行灯 (うたあんどん) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 36,094 characters · 72 screens
「どうもね、寒くって堪らないから、一杯御馳走になろうと思って。ええ、親方、決してその御迷惑を掛けるもんじゃありません。」
で、優柔しく頬被りを取った顔を、と見ると迷惑どころかい、目鼻立ちのきりりとした、細面の、瞼に窶は見えるけれども、目の清らかな、眉の濃い、二十八九の人品な兄哥である。
「へへへへ、いや、どうもな、」
と亭主は前へ出て、揉手をしながら、
「しかし、このお天気続きで、まず結構でござりやすよ。」と何もない、煤けた天井を仰ぎ仰ぎ、帳場の上の神棚へ目を外らす。
「お師匠さん、」
女房前垂をちょっと撫でて、
「お銚子でございますかい。」と莞爾する。
門附は手拭の上へ撥を置いて、腰へ三味線を小取廻し、内端に片膝を上げながら、床几の上に素足の胡坐。
ト裾を一つ掻込んで、
「早速一合、酒は良いのを。」
「ええ、もう飛切りのをおつけ申しますよ。」と女房は土間を横歩行き。左側の畳に据えた火鉢の中を、邪険に火箸で掻い掘って、赫と赤くなった処を、床几の門附へずいと寄せ、
「さあ、まあ、お当りなさりまし。」
「難有え、」
と鉄拐に褄へ引挟んで、ほうと呼吸を一つ長く吐いた。