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わすれえぬひとびと
武蔵野
国木田 独歩
Read 武蔵野 (わすれえぬひとびと) by 国木田 独歩 (くにきだどっぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 94,018 characters · 192 screens
と叔父さん躍り上がって叫んだ。なるほど、ちょっと見ると何物とも判然しないが、しきりに海を游ぐ者がある。見ているうちに小舟が一艘、磯を離れたと思うと、舟から一発打ち出す銃音に、游いでいた者が見えなくなった。しばらくして小舟が磯に還った。
『今のは太そうな奴だな、フン、うまいうまい。』叔父さん独語を言って上機嫌である。
『徳さん、腹が減ったか。』
『減った。』
『弁当をやらかそうか。』
そこで叔父さんは弁当を出して二人、草の上に足を投げだして食いはじめた。僕はこの時ほどうまく弁当を食ったことは今までにない。叔父さんは瓢箪を取り出して独酌をはじめた。さもうまそうに舌打ちして飲んでござった。
『これでおれが一つ打つと一そう酒がうまいが。今に見ろ大きな奴を打って見せるぞ』、瓢箪を振って見て『その時のに残して置こうか。』
さて弁当を食いしまって、叔父さんはそこにごろりと横になった。この時はちょうど午後一時ごろで冬ながら南方温暖の地方ゆえ、小春日和の日中のようで、うらうらと照る日影は人の心も筋も融けそうに生あたたかに、山にも枯れ草雑りの青葉少なからず日の光に映してそよ吹く風にきらめき、海の波穏やかな色は雲なき大空の色と相映じて蒼々茫々、東は際限なく水天互いに交わり、北は四国の山々手に取るがごとく、さらに日向地は右に伸びてその南端