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れきしのおちぼ
歴史の落穂
宮本 百合子
Read 歴史の落穂 (れきしのおちぼ) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 8,780 characters · 17 screens
現代の女は、社会のさまざまの姿に揉まれ、生きるためにたたかっているのであるが、森さんの現実の姿と文章の姿とは偽りない率直さで、今日の女の苦悩の一つの姿を語っている。
森茉莉氏のふぜいある苦しみの姿とでもいうようなものの中には、よい意味での人間らしい教養、落付き、ゆとりというようなものがあって、それらは生活の上にある余裕からも生じているが同時に性格的なもので、しかも一応は性格的といわれ得るものに濃くさしているかげがあるように思われる。明治の末から大正にかけての社会・思想史的な余韻とでもいえようか。
私たちは実に痛烈に露出されている今日の矛盾の中に生き明日へよりよく生き抜かんとしているのであるけれども、日本では今日の女の上にただ今日の陰翳がさしかかっているばかりでない。非常にのろのろと傾きかかり、目前だけを見ればますますその投影がたけを伸ばして来つつあるかのようにさえ感じられる昔の西日の落す陰を身に受けていない者はないのである。
森鴎外という人は、子供を深く愛し、特に教養のことについては無関心でいられなかったらしい。真理と美との人類的遺産を十分理解し、それをよろこび、それに励まされて人間らしく生きる力を、子供らが持つことを希望していたらしい。