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ししゃのしょ
死者の書
折口 信夫
Read 死者の書 (ししゃのしょ) by 折口 信夫 (おりくちしのぶ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 62,340 characters · 126 screens
引いても扱いても通らぬ。筬の歯が幾枚も毀れて、糸筋の上にかかって居るのが見える。
郎女は、溜め息をついた。乳母に問うても、知るまい。女たちを起して聞いた所で、滑らかに動かすことはえすまい。
どうしたら、よいのだろう。
姫ははじめて、顔へ偏ってかかって来る髪のうるささを感じた。筬の櫛目を覗いて見た。梭もはたいて見た。
ああ、何時になったら、したてた衣を、お肌へふくよかにお貸し申すことが出来よう。
もう外の叢で鳴き出した、蟋蟀の声を、瞬間思い浮べて居た。
どれ、およこし遊ばされ。こう直せば、動かぬこともおざるまい――。
どうやら聞いた気のする声が、機の外にした。
あて人の姫は、何処から来た人とも疑わなかった。唯、そうした好意ある人を、予想して居た時なので、
見てたもれ。
機をおりた。
女は尼であった。髪を切って尼そぎにした女は、其も二三度は見かけたことはあったが、剃髪した尼には会うたことのない姫であった。
はた はた ちょう ちょう
元の通りの音が、整って出て来た。
蓮の糸は、こう言う風では、織れるものではおざりませぬ。もっと寄って御覧じ――。これこう――おわかりかえ。
当麻語部姥の声である。