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のこされたるえど
残されたる江戸
柴田 流星
Read 残されたる江戸 (のこされたるえど) by 柴田 流星 (しばたりゅうせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 41,677 characters · 80 screens
こうなっては折角の花菖蒲も散々で、人は園内の切花を高い銭出して買うのが嫌さに、帰り路の小流れのほとり、百姓の児どもなぞが一把三銭の五銭のと客を見て吹ッかけるやつを、また更に値切りたおして、隣近所へまでのお土産、これで留守して貰った返礼をもすますようになって江戸以来の名所も台なしにされた形である。
蒲田にはそうした情なさはないが、ここはまた横浜に近いだけ外人を目あてに好みも自らその方に傾けば、これとて江戸ッ児には興のぼらず、一層その位なら西洋草花を賞美した方がとは、満更皮肉な言い分でもなくなった。
昔男ありけりと碑にも刻まれた東の名花、ここに空しく心なき人々に弄ばれて、あわれにもまた情ない今の有様、如何にもしてそが復活を図りたいものだとは物のわかった昔のお兄哥さんが皺だらけの顔を撫でての思案である。
稗蒔
尺寸の天地をも愛する江戸ッ児は常にその景情を象って、自然の美に接せねばやまぬ。
麦の穂漸く色づいて、田園の風致いよいよ濃やかな頃、今戸焼の土鉢に蒔きつけた殻の青々と芽生えて、宛ら早苗などの延びたらんようなるに、苧殻でこしらえた橋、案山子人形、魚釣りなんどを按排し、橋の下なる流れには金魚、緋目高、子鯉といったような類を放ちて、初夏の午前を担いにのせて売り歩く、なかなかに愛でたきものだ。