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せっしょうだにのおにび
殺生谷の鬼火
山本 周五郎
Read 殺生谷の鬼火 (せっしょうだにのおにび) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 9,545 characters · 19 screens
「ははあ、奴は此処へ入ったのだな」
呟きながら、身を跼めて入ろうとした時、洞穴の入口のところに、妙な黄色い粉がいっぱい落ちているのをみつけた。
「何だろう――」と指に附けて拾って見た、それは硫黄の粉末のような物だった。――敦夫は指で潰したり、匂を嗅いだりしていたが、不意に、
「しめた! 分ったぞ※(感嘆符二つ、1-8-75)」
と大きく叫んだ。そして洞穴の中へ入って行った。中は畳四帖敷ぐらいの広さで、天井も高く、下には古い藁屑がいっぱい散乱していたし、おまけに鼻を衝くような悪臭がむっと立罩めていた。
「何も彼も思った通りだ。――呪いの記録、怨霊の呻声、鬼火、……立派な道具立てだ、椙原家を全滅させて、それで――」
敦夫はそこまで呟いてはたと黙した。――何か物の蠢めく気配がする。
「まだ誰かいるぞ」
恟っとして一歩退き、燐寸を取出してすった。ぱっと光が洞穴の四壁を照した、見ると、……奥の方に誰か倒れている者がある、
「――誰だ、誰だ!」
敦夫が叫ぶと、倒れている人影がゆらりと身動きをして、
「助けて、助けて、――千代だけは、千代だけは触らないで」
と苦しげに呻いた。