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ぬまふじん
沼夫人
泉 鏡花
Read 沼夫人 (ぬまふじん) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 39,541 characters · 78 screens
またまったく心持の可い時でないと見えんから、見えない時でも見るように、見るようにと心掛ける――それでも、散らかって、絡まらないで、更に目に宿らん事が多い。そういう時は、きっと寝そびれて悩むんだ。
そこで、大好きな田圃の中でも、選分けて、あの、ちょろちょろ川が嬉しい。雨上りにちっと水が殖えて、畔へかかった処が無類で。
取留めのない事だが、我慢して聞きたまえ。――本人にも一向掴え処はない。いつも見る景色だけれども、朝だか、晩方だか、薄曇った日中だか、それさえ曖昧で、ただ見える。
さあ、模様が誂向きとなったろう――ところで、一番近い田圃へ出るには、是非、あの人が借りていた、その商家の前を通るんだったよ。
店をはずれて、ひょろひょろとした柳で仕切った、その門を見ると、小児が遊んでいたらしく、めんこが四五枚、散に靴脱ぎのたたきの上へ散って、喇叭が一ツ、式台に横飛び。……で、投出して駈出したか、格子戸が開放し、框の障子も半分開いて、奥の長火鉢の端が見えた。
その格子戸の潜の上へ手を掛けて、
(健ちゃん、)
と呼んでみたが、黙っていた。
(居ないの。お留守、)
と遣ると、……そこもやっぱり開いたままの、障子の陰の、湯殿へ通う向うの廊下へ、しとしとと跫音がして、でも、黙然で、ちょいと顔だけ見せて覗いたが、直ぐに莞爾して、縁側