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かいひんそうのさつじん
海浜荘の殺人
山本 周五郎
Read 海浜荘の殺人 (かいひんそうのさつじん) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 8,672 characters · 18 screens
「…………」
苅田は恟としながらチョッキの胸を押えた。
「それは酒蔵の鍵だ。そしてその鍵は、昨日まさやが使ったんだぜ。――子爵が葡萄酒を飲まれるので、君の部屋から此処へ持って来てあったんだ」
「そうよ、そうだわ!」
志津子が思わず叫んだ、――千之はずいと一歩進んで鋭く突込んだ。
「君は昨夜この部屋へ来た。そして老子爵を殺害し、金を奪って逃げたんだ。――何よりの証拠を云ってやろうか、君はいま午前五時三十分着の一番列車で藤沢へ着いたと云ったが、その列車は沼津で脱線して二時間の延着になっているぞ!」
「――あっ」
苅田平吉はよろよろとよろめいたが、
「畜生ッ」
と喚きざま、猛獣のように千之へ掴み掛った。間一髪千之はひらりと体を捻ると、苅田の利腕を逆に取って捩上げ、腰車にかけて、
「やっ※(感嘆符二つ、1-8-75)」
と其の場へ叩きつけた。――とたんに刑事たちが折重って手錠を掛けて了った。
「苅田は七年のあいだ実直に勤めながら、実は絶えず隙を狙っていたのです」
それから五日めの朝、志津子と千之はベランダで紅茶を啜りながら語っていた。
「そこへ僕たち四人が来た。僕は別として井上や久良や荒木が、ここの財産めあてに貴女と結婚しようと企んでいる事を知り、――自分は偽の電報で兄が病気だと云って、岡山市へ立ちました。