Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

しぶやけのしそ

渋谷家の始祖

宮本 百合子

Read 渋谷家の始祖 (しぶやけのしそ) by 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 68,023 characters · 133 screens

Aozora Bunko

親類の者は皆、九段の御祖母様の御大相(ごたいそう)が始った、と云いながら、集って、笑って、彼を祝して、帰って行った。が、その宴を、決してそんな軽々しいものと思ってはいなかった未亡人は、人が散って静かになると一緒に、微酔を帯びた正隆を、古い、仏壇の金具ばかりが、魂の眼のように光る仏間に連れ込んだ。そして、周囲の襖をぴったりと閉(た)て切ると、未亡人は、正隆が何年にも知らなかった、厳格な、威圧的な調子で、

「正隆」

と、息子の名を呼んだのである。

正隆は、思わず顔を上げて、母未亡人を見た。彼の、その予測し難いものに出逢った困惑で、何時になくたじろいだような表情を、きっかりと押えるように、未亡人は、

「正隆、お前も、これから漸く人になる、今日は大切な日です。だから私も、心ばかりの御餞別(おはなむけ)をして上げたいと思うのだが、お前は聞く気がおありかえ」

「お母さん――」

「はい。――私が是非云って置きたいと思うのはね、ほかでもないが、お前が世間知らずだから、他人(ひと)との懸引をやり損っては大変だということなのですよ」

こんな前提を置いてから、未亡人は、小一時間も、彼女の信ずる処世術ともいうべきもの、それは唯一の方法で、最も完全なものだと思われる処世術に就て、正隆を諭した。