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わたらせがわ
渡良瀬川
大鹿 卓
Read 渡良瀬川 (わたらせがわ) by 大鹿 卓 (おおしかたく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 280,528 characters · 557 screens
当の正造自身は当惑の顔付でそれをさえぎり、
「なアに、私は御承知の通りの無学で、べつに学問やなにかで錬りあげた考えがあるわけでなし、名などはつけるに及ばない。わしのはいわば郷党一千余年の歴史が自然に作りあげた気風人情そのままで、思想などとしかつめらしくいうほどのものではありません」
「価値の問題はともかくとして、あなたの言行の規準であると同時に、人格的表現として他の者に多くの影響を与えている。だとすれば、あなた自身には用はなくともやはり名をつけておいて無用でない」
松村が納得させようとすると、正造はとぼけた口吻で答えた。
「だが、私は今日これと信じていることでも、明日それ以上の説を聴けばまた変ってしまうかも知れない。すると、せっかく名をつけてもらってもたちまち名と合わぬことになるが……」
無論自分の信ずるところに自信がなかったからではない。正造はつねに心からの謙虚さで他の言説に耳を傾ける気持でいたから、何々主義などということで、自ら束縛を受けるのを嫌ったにすぎなかった。
「私は田中君のその点に大いに敬服している。絶えず修養し、研究し、進歩しようとするその気持は尊い」