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わたらせがわ
渡良瀬川
大鹿 卓
Read 渡良瀬川 (わたらせがわ) by 大鹿 卓 (おおしかたく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 280,528 characters · 557 screens
群集の中から感極まった啜り泣きがきこえた。それが隣りから隣りへ伝って、庭いちめんの愁嘆場となった。谷は背をむけて目を拭いつつ静かに軒下へもどった。
一行はさらに支流の矢場川を越えて渡瀬村を一巡し、到るところ塁々と毒塚の立ちならぶのを見つつ、渡良瀬川の舟橋を渡って雲龍寺に立ち寄った。
谷は黒崎住職がすすめても庫裡へは上らず、縁に腰かけて一杯の茶をすするだけだった。すると一人の青年が足もとへきて踞りつつ、一通の封書を出した。
谷が何気なく開くと、前夜にでも書いたらしい鉱業停止請願の血書で、吾妻村桜井与惣治としてある。谷は黙って青年を見つめていたが、住職から筆と硯を借りると、即吟の一首を書いて与えた。
名にしおう毛野国の名もうせはてて涙を袖に渡らせの川。
桜井は差し出された紙を手にうけて黙読していたが、簡袖の肱で横ざまに眼をぬぐうと地面に手をついて引退った。
境内の杉林に風が起って、陰々と夜をむかえる響だった。
その夜、佐野の万世楼で安蘇郡の有志が一堂に会して谷を歓待した。
その席上、谷は演説を強いられたが、
「私はごく内々で視察して帰るつもりで参ったので、かくのごとく多数来会者の席に出ることすら、私の本意でないのである。