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わたらせがわ
渡良瀬川
大鹿 卓
Read 渡良瀬川 (わたらせがわ) by 大鹿 卓 (おおしかたく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 280,528 characters · 557 screens
自由党のなかにはその餌に尾を振った犬みたいな奴もいるが、却ってその陋劣手段に反感を抱いて政府攻撃へ廻った者もいる。私はそういう巷間の説をここでただ受け売りしたまでです」
「そうか。わしはまた蔭で改進党の誰かを誹謗したのかと思った。天下国家を憂うるものが婦女子の言動をすると思ったから腹が立った」
「やっぱり聾の早耳の部類だよ。そんなことを聞けば誰も黙って放ってはおかない」
前にいた加藤政之助がふり返って笑った。
「これや、わしが悪かった、すまなかった」
正造はもうそれで釈然とした顔付になって腰を下した。腕組みして、また別人のように黙々と瞑想に入るごとくであった。一座もまた次の総選挙の予想などに話題を移して、にぎやかな話し声になった。内務大臣品川弥二郎は前の山県内閣のときにも、解散を断行して御用党をつくるべしと裏面から献策した男だ。彼にすれば第一議会に山県が小心で行えなかったところを今度みずから遂行したにすぎない。当然の結果としておそらく極度の選挙干渉をやるだろう。誰の予想もそれに一致していた。
それをききつつ、正造の胸は、他の者の思いおよばぬ別箇の憤りと憂慮に痛んでいた。