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かせいのうんが
火星の運河
江戸川 乱歩
Read 火星の運河 (かせいのうんが) by 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 4,715 characters · 10 screens
ああこの肉体だ(!)私は余りの嬉しさに、心臓が喉の辺まで飛び上るのを感じた。
私の肉体は、(それは不思議にも私の恋人のそれと、そっくり生うつしなのだが)何とまあすばらしい美しさであったろう。ぬれ鬘の如く、豊にたくましき黒髪、アラビヤ馬に似て、精悍にはり切った五体、蛇の腹の様につややかに、青白き皮膚の色、この肉体を以て、私は幾人の男子を征服して来たか。私という女王の前に、彼等がどの様な有様でひれ俯したか。
今こそ、何もかも明白になった。私は不思議な沼の美しさを、漸く悟ることが出来たのだ。
「オオ、お前達はどんなに私を待ちこがれていたことであろう。幾千年、幾万年、お前たち、空も森も水も、ただこの一刹那の為に生き永らえていたのではないか。お待ち遠さま(!)さあ、今、私はお前達の烈しい願をかなえて上げるのだよ」
この景色の美しさは、それ自身完全なものではなかった。何かの背景としてそうであったのだ。そして今、この私が、世にもすばらしい俳優として彼等の前に現れたのだ。
闇の森に囲まれた底なし沼の、深く濃かな灰色の世界に、私の雪白の肌が、如何に調和よく、如何に輝かしく見えたことであろう。