Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

はいいろのきおく

灰色の記憶

久坂 葉子

Read 灰色の記憶 (はいいろのきおく) by 久坂 葉子 (くさかようこ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 65,588 characters · 132 screens

Aozora Bunko

今日こそは、波にさらわれまいとし、その小さな念願をくりかえしながら、次第に汀で遊ぶことが退屈になり、私はお魚や、貝がらをあつめたり、磯の間に、ぶきみな形の小石をひろったりした。それは大切に、廊下に並べられたり、お菓子の空箱にしまいこまれたりした。

毎朝、五時に、ほら貝が鳴る。私達は女中の手にぶらさがって、ほら貝の鳴っているところへゆく。漁師が海から帰って来て、獲物のせり市があるのだ。私は生臭いその空気を好んでいた。大きな台があって、其処に、がらがらした声のおっさん達が、竹べらにチョークで何やら記して伏せて置いたり、ひらいたりしている。私は、荒っぽいその中に、びくびく動いているおさかなを、別に同情もしないでみていた。真赤な血が垂れる。自分の爪のような鱗がとぶ。私の殊に好きなさかなは、蛸であった。必ず、その丸く吸いつくところへ手をもってゆき、小さな指で、強くひっぱられることに興味を抱いた。たくさんの穴へ一本一本の指をいちいち吸いつかせる。そうしているうちに、邪魔だとしかられる。しかし太いお腹に毛糸であんだぶあつい腹巻をして、黒い長ぐつをはせた漁師達に、私は肉親以上のしたしみを抱いていた。