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ぼんのうひぶんしょ

煩悩秘文書

林 不忘

Read 煩悩秘文書 (ぼんのうひぶんしょ) by 林 不忘 (はやしふぼう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 86,705 characters · 173 screens

Aozora Bunko

胸を突く小坂が、まっすぐ、宵やみの雑木林の奥へ消えている。三国ヶ嶽の登山ぐちである。

これから上に、家はない。

この夕方から夜みちをかけて、文珠屋佐吉、三国ヶ嶽へのぼろうというのだろうか。

なにしろ――。

そして、この文珠屋とは何者?

間もなく、佐吉のつづら笠は、あみだ沢の家々を遠く下に見て、三里の上りを、三国一点の頂上をさしてすたすたいそいでいた。

さながら、空ゆく風――疾い足だ。

第二の葛籠笠

斬り傷、金創の入湯客が多い。

自然、人別あらための山役人の眼がきびしい。

山奥ながら、宿屋とあれば、藤屋も宿帳を一冊備えて、――この宿帳に。

半月ほど前に名を記して、今だにずっと滞在している三人づれの江戸の客というのは、

下谷練塀小路 法外流剣法道場主

弓削法外 六十三歳

同人娘    千浪 十九歳

法外門人 伴大次郎 二十七歳

「ほんとうにお父さまは、どうしてこんな淋しいところに、こうしていつまでもいらっしゃるのかしら――。」

黒ずんできている湯だ。湯気が白く眼立つ。もうすっかり暮れてしまったのに、千浪は上ろうともせず、腰から上を湯のうえに見せて、天然の湯船をなしている岸の巌に、凭りかかって立っている。