Japanese reading practice

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ぎゅうにくとばれいしょ

牛肉と馬鈴薯・酒中日記

国木田 独歩

Read 牛肉と馬鈴薯・酒中日記 (ぎゅうにくとばれいしょ) by 国木田 独歩 (くにきだどっぽ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 54,018 characters · 109 screens

Aozora Bunko

五月十四日

寂寥として人気なき森蔭のベンチに倚ったまま、何時間自分は動かなかったろう。日は全く暮れて四囲は真暗になったけれど、少しも気がつかず、ただ腕組して折り折り嘆息を洩すばかり、ひたすら物思に沈んでいたのである。

実地に就ての益に立つ考案は出ないで、こうなると種々な空想を描いては打壊わし、又た描く。空想から空想、枝から枝が生え、殆んど止度がない。

痴情の果から母とお光が軍曹に殺ろされる。と一つ思い浮かべるとその悲劇の有様が目の先に浮んで来て、母やお光が血だらけになって逃げ廻る様がありありと見える。今蔵々々と母は逃げながら自分を呼ぶ、自分は飛び込んで母を助けようとすると、一人の兵が自分を捉えて動かさない……アッと思うとこの空想が破れる。

自分が百円持って銀行に預けに行く途中で、掏児に取られた体にして届け出よう、そう為ようと考がえた、すると嫌疑が自分にかかり、自分は拘引される、お政と助は拘引中に病死するなど又々浅ましい方に空想が移つる。

校舎落成のこと、その落成式の光景、升屋の老人のよろこぶ顔までが目に浮んで来る。

ああ百円あったらなアと思うと、これまで金銭のことなどさまで自分を悩ましたことのないのが、今更の如くその怪しい、恐ろしい力を感じて来る。