Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
おぎふくうた
犀星王朝小品集
室生 犀星
Read 犀星王朝小品集 (おぎふくうた) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 105,794 characters · 211 screens
」
「慮外者、耳が腐る。」
経之は手をあげて、定明の頬を続けさまに撲った。あおざめた定明は兄の肩先をつかんだ。
「撲たれたな。」
「汝ごとき畜生道の言葉をあやつる奴は、撲るよりほかに手の施しようがないのだ。張り手を受けろ。」
経之はなお手をあげようとした時、突然、癇癖に逆上した定明はやかたに飛びこむと、小太刀を携えて素足で庭石の上におりた。手を柄の上にわなわなと震え、もう、ものもいえぬほどの昂り方だった。
「莫迦者、そのざまは何だ。」
経之は近よると、小太刀の上の手をちからを込めて、はたいた。
「この館の内でそんな太刀が抜けるか、たとえ、われにかかって来ても何の勝が得られるのだ。」
さすがに定明は、小太刀を持ち出したことが、昂りすぎて気恥かしかった。だが、引くことの出来ないぎりぎりの間に兄弟は立っていた。
「勝はいずれにあるか、そんなことは当にしていないのだ。」
「行け、莫迦者。」
経之は去った。
これ以上昂らせることの無益は、定明の短慮焦躁の日常を知っていたから、経之は懲しめることをしないで去って行った。
その夜も煤をながしたような暗さが、凍みて石のように固い空模様にまじって、庭は水底の冷えを行きわたらせていた。