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おぎふくうた
犀星王朝小品集
室生 犀星
Read 犀星王朝小品集 (おぎふくうた) by 室生 犀星 (むろうさいせい) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 105,794 characters · 211 screens
この岩上から見える都の煙らしいものは、きょうもあいたいとして愉しく揺曳していた。彼女は野伏ノ勝を思った。だがどのようにしても袴野の眼を掠めることは出来ない、岩のすきま林の中くさむらの間にも、袴野の眼がきらつくと思えば、そこにかならずその眼附が見えていた。袴野に拾われなかったらすては、どうなっている女だか判らない、すての一心もここにある、仕えることの止むをえない、また心からのものも交っていたのだ。彼女はその時、自分の名前が非常に注意深い低さで呼ばれていることを、殆ど半信半疑で耳にいれた。この間際に、すては貝ノ馬介の厳丈なすがたを山塞の入口に見出した。それは勿論、袴野の他出を知っての事ながら、敵塞に踏みこむということはよほどの決意のもとで、そうなされたことを予感しなければならないのだ。
「すてどの、馬介が、来ました。」
と、咄嗟では貝ノ馬介は子供のような不用意な声でいった。
「何の用かや。」
「そなたをきに参った。」
「たわけたことを言わしゃるな。」
「ここまで来るからには、そなたにも決心のほどを知るがよい。眼をつぶって男というものの賭けたいのちを頼む、それは無下に棄てさせないでな。