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いちろうじん
犬田卯短編集二
犬田 卯
Read 犬田卯短編集二 (いちろうじん) by 犬田 卯 (いぬたしげる) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 51,383 characters · 103 screens
との挨拶。しかし儀作は、あくまでも若旦那の好意を信じて疑わなかった。三度目に手代に突っぱねられた時、彼は邸宅の門前の雪堆の傍らに待ちかまえていて、若旦那が自動車に乗り出したところを「今日は――」と言ってつかまえた。
「わし、栗林ですが……」というと、
「あ、君か……」
若旦那は思ったとおり親切であった。すでに車の中にゆったりと座りこんで、匂いのいい煙草をふかしながら、先を急ぐ用事を控えているらしいにも拘らず、儀作の用件を、ふんふん……と一々うなずきながら聞いてくれたのである。「うむ、なるほど事情はよく分った。君もこの際、そんなことをされるのは困るだろうから、弁護士の方へ僕から話をするがな、しかしいっさい、僕はその方には手を出さんことにしてあるんだ。――僕はな、これから新規の事業をはじめるんで忙しいんだよ。君、どうかね、聞けば君も困っているようだが、僕の工場の方へ来て働かんかね、なアに、東京の方ではないよ。この近くへ、もう一つはじめるんだ。ほら、県ざかいのあの鹿取山さ、君らもあの辺はよく知ってるだろう。最近、あの山の向うに、君、調査して見るとアンチモンが何千万トンというほど埋蔵されているんだ。