Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
くるいだこ
狂い凧
梅崎 春生
Read 狂い凧 (くるいだこ) by 梅崎 春生 (うめざきはるお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 111,430 characters · 226 screens
(おれも大人になったら、年の暮れになると、臼や杵を持ち出して、うちの餅をつく)
子供の彼はその事を信じて疑わなかった。疑うきっかけはなかった。昔からこうする役目は大人にきまっていたし、時世が変ることなんて、夢にも思わなかった。日が東から登って西に沈む。それと同じように、その時それは自明の事実であった。
兄の竜介はもう中学生になっていて、餅を丸める仕事にあき足らず、しきりに餅つきの作業に参加したがって、父や母にたしなめられていた。
「まだまだお前は早い。も少し腰がすわって来ないと――」
事実竜介が杵を持つと、ひょろひょろした。杵が臼のふちにごくんと当ったり、餅に粘りつかれて杵が持ち上らなくなったりした。あれは案外技巧が要るもので、腕に力がついたからと言って、うまく行くものではない。とは言うものの、栄介は四十四歳の今日に至るまで、とうとう杵をふるう機会を持ったことはなかった。今にしてそう想像するだけだ。
「どうですか。背中の具合は?」
医師が訊ねた。
「つめたくはないですか?」
「いいえ」
彼は首を振ろうとしたが、背にかぶさっているもののために、うまく行かなかった。