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きつね
狐
永井 荷風
Read 狐 (きつね) by 永井 荷風 (ながいかふう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 9,770 characters · 20 screens
父を初め、一同、「しめた」と覚えず勝利の声を上げる。田崎と車夫喜助が鋤鍬で、雪をかき除けて見ると、去年中あれほど捜索しても分らなかった狐の穴は、冬も茂る熊笹の蔭にありあり見えすいて居る。いよいよ狐退治の評議が開かれる。
喜助は、唐辛でえぶせば、奴さん、我慢が出来ずにこんこん云いながら出て来る。出て来た処を取ッちめるがいいと云う。田崎は万一逃げられると残念だから、穴の口元へ罠か其れでなくば火薬を仕掛けろ。ところが、鳶の清五郎が、組んで居た腕を解いて、傾げる首と共に、難題を持出した。
「全体、狐ッて奴は、穴一つじゃねえ。きつと何処にか抜穴を付けとくって云うぜ。一方口ばかし堅めたって、知らねえ中に、裏口からおさらばをきめられちゃ、いい面の皮だ。」
一同、成程と思案に暮れたが、此の裏穴を捜出す事は、大雪の今、差当り、非常に困難なばかりか寧ろ出来ない相談である。一同は遂にがたがた寒さに顫出す程、長評定を凝した結果、止むを得ないから、見付出した一方口を硫黄でえぶし、田崎は家にある鉄砲を準備し、父は大弓に矢をつがい、喜助は天秤棒、鳶の清五郎は鳶口、折から、少く後れて、例年の雪掻きにと、植木屋の安が来たので、此れ亦、天秤棒に加わる事となった。