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げんかくさんぼう
玄鶴山房
Read 玄鶴山房 (げんかくさんぼう) by Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 12,434 characters · 25 screens
が、豪傑肌の父親よりも昔の女流歌人だった母親に近い秀才だった。それは又彼の人懐こい目や細っそりした顋にも明らかだった。重吉はこの茶の間へはいると、洋服を和服に着換えた上、楽々と長火鉢の前に坐り、安い葉巻を吹かしたり、今年やっと小学校にはいった一人息子の武夫をからかったりした。
重吉はいつもお鈴や武夫とチャブ台を囲んで食事をした。彼等の食事は賑かだった。が、近頃は「賑か」と云っても、どこか又窮屈にも違いなかった。それは唯玄鶴につき添う甲野と云う看護婦の来ている為だった。尤も武夫は「甲野さん」がいても、ふざけるのに少しも変らなかった。いや、或は「甲野さん」がいる為に余計ふざける位だった。お鈴は時々眉をひそめ、こう云う武夫を睨んだりした。しかし武夫はきょとんとしたまま、わざと大仰に茶碗の飯を掻きこんで見せたりするだけだった。重吉は小説などを読んでいるだけに武夫のはしゃぐのにも「男」を感じ、不快になることもないではなかった。が、大抵は微笑したぎり、黙って飯を食っているのだった。
「玄鶴山房」の夜は静かだった。朝早く家を出る武夫は勿論、重吉夫婦も大抵は十時には床に就くことにしていた。