Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
たまものまえ
玉藻の前
岡本 綺堂
Read 玉藻の前 (たまものまえ) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,703 characters · 261 screens
しかし彼も扇のほかに何物をも持っていないので、そこらに転がっている小石や、土くれのたぐいを手あたり次第に拾って投げた。手近へ飛びかかって来る敵を扇で打ち払った。
犬の声があまりに激しいので、宵寝の都人も夢をおどろかされたらしい。路ばたの小さい商人店では細目に戸をあけた。それが盗賊でない、犬のいたずらであると知ったときに、そこらの家から二、三人の男が棒切れを持って出て来た。彼らは千枝太郎に加勢して、むらがる犬どもを叩きのけてくれた。敵がだんだんに多くなったので、犬もとうとう追い散らされてしまった。
「かたじけのうござる」
千枝太郎は加勢の人たちに礼をいって、自分の囲っている女を見かえると、女はいつか自分のうしろを離れて、ある家の軒下の暗いかげに身を寄せていた。千枝太郎は彼女に声をかけた。
「さぞ怖ろしゅうござったろう。犬どもはみな追い払うた。心安うおぼされい」
女は黙って軒下からすうと出て来た。彼女はまだ被衣を深くしているのを、千枝太郎は月明かりで覗きながら訊いた。
「玉藻でないか」
言いかけて彼はぎょっとした。被衣を洩れた女の顔は譬えようもないほどに悽愴いものであった。