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たざきそううんとそのこ
田崎草雲とその子
吉川 英治
Read 田崎草雲とその子 (たざきそううんとそのこ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,568 characters · 40 screens
岸田吟香、松浦武四郎、栗田万次郎、富岡鉄斎、林和一、渡辺洪基、そんな連中が、格太郎の塾の学友だった。――後に、明治になって、精綺水という眼薬を売った岸田吟香とは、ことに、仲がよかった。そして、吟香も、武四郎も、
『田崎は、できる。親父も親父だが、あれも俊才だ』
といっていた。
短袴長刀の講武所すがたで、塾へ通う格太郎のすがたを、隣りのお房は、ちらとでも、見ることが楽しかった。灯ともし頃――もう帰る頃――彼女は、何かの用事をこしらえて、使に出たがった。
その癖、どうかして表で会うと、お房は、襟もとまで紅くなって、気のつかない振をした。眸があうと、唇を乾かして、苦しそうに、ただニコッと笑う。格太郎も、微笑する。それだけの年月が二年もたった。
一方――父草雲はといえば、年ようやく不惑をこえること五年、いわゆる、彼の生涯の一期劃をなす「浅草草雲時代」の惨心いたましき行道に、はいっていたのである。
年二十歳で、藩を脱しさせた、画心と壮心のふたつは、それから、二十五年の貧乏にも、少しも歪められはしなかった。いや、運命は、苛酷にまで、彼を研いた。武士としての修養を、画人としての造詣を、また人間そのものを。