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たざきそううんとそのこ
田崎草雲とその子
吉川 英治
Read 田崎草雲とその子 (たざきそううんとそのこ) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 19,568 characters · 40 screens
しんと、鎮まった空気から、もう何の声も出なかった。
『また、各※(二の字点、1-2-22)の義とする鉄心、佐幕! その気持も草雲にはよう分る。しかし思い給え、今や、小藩足利は、危機目前、ひと度、錦旗のまえに、賊名を負わば、何を以て、千歳日月の下に、武士の名がござろう。すでに、将軍家におかれてさえ、京に於て、恭順、御辞職のおうわささえ洩れ承るに、一小藩、一臣下が、何の反対。――各※(二の字点、1-2-22)は、精神なき江戸城、空骸の幕府を奉じて、上一天に反き、藩侯の御意志にも反いて、それを臣節と仰せあるや』
いつの場合も、誠意と熱は、人を衝たずにおかないものであった。江戸藩邸の反論は、こぞって、彼の赤誠に屈伏した。
徹宵の評議、そして、急転下にまとまった藩論の一致。草雲は、完全に、衆を一つにした。
すぐ、国許へ、早打が飛ぶ。
戸田藩一致、全藩勤王へ――である。
彼はさだめし、ほっと、肩の重荷を下ろしたであろう。
『だが、これから!』
草雲は、不眠不休のからだを、二刻ほど休めて、早飛脚より、一足あとから、すぐに旅装を締め直した。そして浅草見附の橋袂までくると、彼方から、まだうら若い女が、生後幾月も経たない嬰児を負うて、歩いてくる。