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がぎょうにじゅうねん
画業二十年
中谷 宇吉郎
Read 画業二十年 (がぎょうにじゅうねん) by 中谷 宇吉郎 (なかやうきちろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 2,841 characters · 6 screens
墨に凝るというと、よほど審美感の発達した大通人のように思うのは、大いに間違っている。中国の昔の青墨、即ち松煙墨は、淡くしてみると、非常に美しい色になる。青みがかった透明な鼠色をしている。アクアマリンという水色の宝石があるが、あれを夕闇の窓で見たような色である。現代の日本の墨は、油煙墨であって、淡くすると、汚い濁った茶色を帯びる。小学校の子供に見せても、すぐわかるちがいで、何も通がっていう話ではない。もっとも中国の古い油煙墨には、茶がかっていてしかも非常に美しい暖かい感じの墨色を出すものもあるが、その方は一寸私などの手にはいらない。
松脂を灼いても、油を燃しても、炭素の粉になる点ではちがいないのに、こういう著しい墨色の差が出るのは、まことに不思議である。炭素という化学的性質に差がなければ、結晶性とか粒子の形とかいう物理的性質のちがいによるのであろう。しかし厄介なことには、墨の粒子は非常に小さいもので、最高倍率の顕微鏡でも、その形は見えない。それで昨年あたりから、私たちの教室で、電子顕微鏡で粒子の形を調べる仕事を始めた。
なかなか面白い写真がとれるので、今に昔の名墨の秘密がわかりそうである。