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やせがまんのせつ
瘠我慢の説
木村 芥舟
Read 瘠我慢の説 (やせがまんのせつ) by 木村 芥舟 (きむらかいしゅう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 5,313 characters · 11 screens
予の初めて先生を知りしは安政六年、月日は忘れたり。先生が大阪より江戸に出で、鉄炮洲の中津藩邸に住われし始めの事にして、先生は廿五歳、予は廿九歳の時なり。先生咸臨丸米行の挙ありと聞て、予が親戚医官桂川氏を介してその随行たらんことを求められしに、予はこれ幸の事なりと思い、直ちにこれを肯んじ、一見旧のごとし。
翌年正月十九日の夕、共に咸臨丸に乗組て浦賀湾を出帆したり。先生は予がこの行に伴いしを深く感謝せらるるといえども、予の先生に負うところ、かえって大にして大に謝せざるべからざるものあり。それを如何というに、この時洋中風浪暴くして、予が外に伴いたる従者は皆昏暈疲憊して、一人も起つこと能わず。先生は毫も平日と異なることなく、予が飲食起臥の末に至るまで、力を尽しこれを扶け、また彼地に上陸したる後も、通弁その他、先生に依頼して便宜を得たること頗る多ければなり。
その年閏五月五日、咸臨丸は無事に帰朝し、艦の浦賀に達するや、予が家の老僕迎に来りし時、先生老僕に向い、吾輩留守中江戸において何か珍事はなきやと。老僕額を蹙め、有り有り、大変が有りたりという。先生手を挙げて、そは姑らく説くを休めよ、我まずこれを言わん、浮浪の壮士が御老中にても暗殺せしにはあらざる歟と。