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はっけっきゅう
白血球
豊島 与志雄
Read 白血球 (はっけっきゅう) by 豊島 与志雄 (とよしまよしお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 11,538 characters · 24 screens
だけど……。」
「奥さま!」と襖の向うから声がして、女中の清が顔を出したので、秋子は俄に恐い眼付をして見せた。綾子は何のことだか分らずに、きょとんとした顔で口を噤んだ。
秋子は尋ねられた用事を清に答えておいて、それから暫くして、真顔で向き直ってきた。
「そんな話を誰にもしてはいけませんよ。………そして、何か変なことはないかと人に聞かれたら、何にもないと答えるんですよ。」
「なぜ?」
「なぜって、もしおかしな評判でもたってごらんなさい……。」
それがどうしていけないかをはっきり云い現わせなくて、彼女は中途で言葉を切った。
「だって、西洋の御伽噺にあるような、面白いお化なら出たって構わないわ。」
口を尖らし眼をくるりとさしてる綾子の顔を見て、秋子も自然と笑みを浮べた。
けれど……。そういう噂があるとすれば、うっかりしても居られなかった。
二階が二室に階下が三室、便利に出来てる上に、日当りも相当によく、木口は粗末だが新らしく、家賃も案外安いので、近頃のめっけ物だといってすぐに越して来たのだった。が、玄関からすぐに階段、右手が八畳の座敷、それと反対に、左手の台所へ通ずる廊下側の、四畳半の女中部屋だけが、何だか薄暗くて陰気だった。