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しろがねのえず
白金之絵図
泉 鏡花
Read 白金之絵図 (しろがねのえず) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 23,356 characters · 47 screens
いずれも雑樹林や、畑を抱く。この荒地の、まばら垣と向合ったのが、火薬庫の長々とした塀になる。――人通りも何にも無い。地図の上へ鉛筆で楽書したも同然な道である。
そこを――三光坂上の葭簀張を出た――この老人はうら枯を摘んだ籠をただ一人で手に提げつつ、曠野の路を辿るがごとく、烏瓜のぽっちりと赤いのを、蝙蝠傘に搦めて支いて、青い鳶を目的に、扇で日を避け、日和下駄を踏んで、大廻りに、まずその寂しい町へ入って来たのであった。
いや、火薬庫の暗い森を背中から離すと、邸構えの寂しい町も、桜の落葉に日が燃えて、梅の枝にほんのりと薄綿の霧が薫る……百日紅の枯れながら、二つ三つ咲残ったのも、何となく思出の暑さを見せて、世はまださして秋の末でもなさそうに心強い。
そこをあちこち、覗いたり、視たり、立留ったり、考えたり、庭前、垣根、格子の中。
「はてな。」
屋の棟を仰いだり、後退りをまたしてみたり。
「確に……」
歩行出して、
「いや、待てよ……」
と首を窘めて、こそこそと立退いたのは、日当りの可い出窓の前で。
「違うかの。」と独言。変に、跫音を忍ぶ形で、そのまま通過ぎると、女学校のその通用門を正面に見た。