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まゆかくしのれい
眉かくしの霊
泉 鏡花
Read 眉かくしの霊 (まゆかくしのれい) by 泉 鏡花 (いずみきょうか) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 26,284 characters · 51 screens
」と駈け出して行くと、やがて、スッと水が出た。――座敷を取り替えたあとで、はばかりに行くと、ほかに手水鉢がないから、洗面所の一つを捻ったが、その時はほんのたらたらと滴って、辛うじて用が足りた。
しばらくすると、しきりに洗面所の方で水音がする。炬燵から潜り出て、土間へ下りて橋がかりからそこを覗くと、三ツの水道口、残らず三条の水が一齊にざっと灌いで、徒らに流れていた。たしない水らしいのに、と一つ一つ、丁寧にしめて座敷へ戻った。が、その時も料理番が池のへりの、同じ処につくねんと彳んでいたのである。くどいようだが、料理番の池に立ったのは、これで二度めだ。……朝のは十時ごろであったろう。トその時料理番が引っ込むと、やがて洗面所の水が、再び高く響いた。
またしても三条の水道が、残らず開け放しに流れている。おなじこと、たしない水である。あとで手を洗おうとする時は、きっと涸れるのだからと、またしても口金をしめておいたが。――
いま、午後の三時ごろ、この時も、さらにその水の音が聞こえ出したのである。庭の外には小川も流れる。奈良井川の瀬も響く。木曾へ来て、水の音を気にするのは、船に乗って波を見まいとするようなものである。