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やのしのとい

矢押の樋

山本 周五郎

Read 矢押の樋 (やのしのとい) by 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 14,468 characters · 29 screens

Aozora Bunko

外記は唇をひき歪め、眤と梶之助の面を見戍っていたが、やがて白い眉をくっとあげながら云った。

「ならん。……」

「然しその他に手段がございますか」

「それとこれとは別だ」

食いつくような梶之助の眼から、外記は静かに顔を外らしながら云った。

「繰返して申すが、濠の水は素より石垣の石一つ動かすにも重い掟がある、国老としてその掟を破ることは出来ぬ、その意見は無用だ」

梶之助はぶるぶると拳を震わせた。

必ず通す、通さずには置かぬ、確信を以てそう考えていた事が徒労に終った。此処まで来れば彼の執るべき法は一つしかない、決心は疾に出来ているのだ。……梶之助は席を立って退出した。

下城して内濠の土堤へかかった時である。

「矢押どの、……矢押どの」

そう呼びながら足早に追って来た者があるので、振返ると外村重太夫だった。急いで来たとみえて、肌着を徹した汗が帷子まで滲出ている、……そして側へ近寄るといきなり、「唯今は立派でござった」と感動した声で云った。

「先日は詰らぬ小言を云って、お詫びを申さなければならぬ。なにも知らなかったのだ、さぞ笑止に思われたであろう」

「そう仰せられるのは……」