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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
Read 石狩川 (いしかりがわ) by 本庄 陸男 (ほんじょうむつお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 253,535 characters · 506 screens
工を起して十三日目。平地にはいったこの開鑿路は、盛り土の最後のモッコを、遂にぶっつけた――終点の、ひろげた傘のようなオンコ樹の根もとに。傍らには、「旧仙台藩伊達邦夷貸付地」と書いた標木が、草の海に浮んでいた。取りあえず四辺の草は刈り取られた。一先ず、目路をさまたげる立木も伐り倒した。期せずして彼らは待った。待っていた――
「ご家老どのは見えられんじゃろうか」
それを云ったのは大野順平であった。
「あやにく――」と傍らで答えた。相田清祐であった。口をすぼめて、滾れでる微笑をおし殺して彼は云うのだ。「さすがの阿賀妻どのも、おん身らの努力のほどは計算出来ざったと見えてのう、惜しいことに、今日はまたしても兵粮の買いだしに出向いておる」
「それもお役目」と大野は短かく云った。彼にしてみれば、その阿賀妻がこの場にい合せてくれることは無論嬉しいのだが、その気持の底では「殿――」の邦夷を待っていた。路は遂に穿たれた。この身うちの感激がこのままに消えるのが物足りなかった。
「これでございますが」と彼は標木の一面を指さした。先ごろの踏査に、今日のために、故意に書き残しておいたものであった。