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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
Read 石狩川 (いしかりがわ) by 本庄 陸男 (ほんじょうむつお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 253,535 characters · 506 screens
北海の海は氷雪にとじこめられた何カ月か、交通を杜絶させた。加うるに、進歩した蒸気船とは云え、いまだ必ずしも航路の安全は保証されていないのだ。だから、この季節にあちらに渡るものは、当然あたたかい彼方の土地で冬を越すことになる。すると、馴れないこの地に残されて、風雪のなかに、いんうつな数カ月を送らねばならぬ彼らが、少年のように人懐こくなるのも無理はなかった。
それらの感傷を償うのは、やがてこの邦夷らが、家中のものの大部隊をひきいて来ることであった。凛冽たる開拓の意志が、目下の、腹にこたえるさまざまな感情を殺さねばならぬと思うのだ。他日計画の成ったとき、今日の冷酷さを思い描いて歓びを感ずるために。
港の霧のなかで白髪の相田清祐は厚ぼったい声で短かく云った。
「どうぞ恙なく――」
邦夷はうんうんと頷いてみせた。
「なに分ともあとのことは、――」と、阿賀妻は大野順平に眼くばせした。
凝っと見かえす眼でその男はしきりに合点していた。
船は蒸笛を吹き鳴らしてオダルの港を出た。
霧は剥ぐように消えた。海は紺色にどろりとしていた。雨雪の多い西蝦夷の空にとって、奇蹟のような小春日和があらわれたのである。