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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
Read 石狩川 (いしかりがわ) by 本庄 陸男 (ほんじょうむつお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 253,535 characters · 506 screens
ゆるやかに下る船から眺めていると、ここに天下をくつがえす変動が起きたとは根も無い話のように思われる。底濁りした大川の水も恐らく昔と同じ速さで流れているのだろう。ただ、乗り合せた客だけは変ったと云えようか。和洋とりどりであった。まげもあり散髪もあった。ときどき袂から時計をだして見ている男もあった。
京橋八丁堀の稲屋が阿賀妻の定宿であった。定宿と云っても、云うほど深い馴染でもない。本藩の下屋敷に出向かなくなって以来のことだ。ここまで来ると、往来は目立ってはげしくなった。
番頭は見覚えていた。帳場からとび出して来て式台に手をついた。
「おはやいお着きでございます――」
「しばらくご厄介になりたいのじゃ、が」
「さア、さア――どうぞ、どうぞ、しばらくでも、三年でも――それ、おい、すすぎを」と番頭は女中を呼びつけた。
昼食をすませて彼らは出かけた。
「どちらでございます」と番頭はたずねた。
「芝――増上寺でしたかな」
「ああ開拓使さま――たいへんな発展でございますそうなですな」
「ゆるゆる見物がてらにまいって丁度でござろう」
「さようでございますねえ」と番頭は戸口に出て陽の高さを見あげ、「何しろ夜長の季節でございますからねえ、江戸のころでは芝居の見物どきが来たと申しましたよ」