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いしかりがわ
石狩川
本庄 陸男
Read 石狩川 (いしかりがわ) by 本庄 陸男 (ほんじょうむつお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 253,535 characters · 506 screens
おのれの思いに沈潜するのだ。鬚のない堀のぬるぬるしたような顔には照りつける赤い夕陽が揺れている。馬の背の反動に、ざんぎり頭の髪の毛が波をくらった海草のように浮き沈みする。
うしろの馬は従いて走った。
目路のたかさに舂いた陽は、木蔭や藪の底にひそんでいた冷い空気を呼び寄せた。馬は汗を流しているが、心のなかは寒いのである。少しでも距離を大きくすることは、それだけ孤独に近づくことであった。見通しも利かないほど濶い原野の夕暮れは、ひととき赫ッと輝いて、あとはたちまち時雨れるようなうす墨であった。身のすくむような寂寞であった。気のよい動物である馬どもには、いち早く通ずる曠野の淋しさであった。鼻を鳴らして、たてがみを振り、目的地に向って気を立てて急ぐのであった。
それでも日はすっかり暮れていた。
大主典を迎えたイシカリ出張所の下僚に馬の手綱を渡し、阿賀妻は挨拶をして渡船場に向った。晴れあがった夜空には明滅する星の青光りが一またたき毎に増した。水は、はるかな海も、目の前の川も、一様にくろずんでいる。波うつ水面の絶えまない揺ぎが、暗闇のなかにぴらぴらと見わけられるに過ぎない。