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わたしのかつどうしゃしんぼうかんし

私の活動写真傍観史

伊丹 万作

Read 私の活動写真傍観史 (わたしのかつどうしゃしんぼうかんし) by 伊丹 万作 (いたみまんさく) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 15,073 characters · 30 screens

Aozora Bunko

私は伊藤との交友二十年の間に、その夜の彼ほど嬉しそうな彼をかつて見たことがない。

かくて我々数人の所有にすぎなかつた伊藤大輔という名まえはその夜から世間の有に帰した。

二十一歳の五月に私は入営をした。(この時分から伊藤は蒲田に移り住んでいたようである。)広島の野砲隊、三カ月の補充兵役である。

入営の前夜、広島の盛り場で見送りにきた父と二人で活動写真を見た。その写真は井上と水谷の「寒椿」である。

入営中も伊藤は筆まめに手紙をくれたが、封筒の中にはいつも、その時々の彼の脚色した写真のポジが何コマか入れてあつた。その当時のポジはみな染色されてあつたので、封筒を逆さまにすると色とりどりのポジがヒラヒラと寝台の毛布の上に舞い落ちるのは私の殺風景な兵営生活にただ一つの色彩であつた。

その翌年にも演習召集で三週間服役したが、それを終つて東京へ出るときはあらかじめ伊藤に依頼していつしよに棲む部屋を借りておいてもらつた。青山学院の近所、少し渋谷の方へ寄つたほうで八畳か十畳の二階であつた。

その時分には研究所はすでに解散して伊藤は松竹キネマ脚本部員となつていたが、当時伊藤の月給は九十円で、しかも仕事は無制限にやらされていた。