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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Read 私本太平記 (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 116,638 characters · 233 screens
みちのくの脅威にたいする鎌倉方の防禦線は、つねにここを「――越えられるものなら越えてみろ!」と、一大自然の利を持つ備えとして恃んでいる。
そのうえに足利方では、顕家の西上にたいして、すでに抜かりのない防備の陣を対岸にしいていた。
つたえられるところによると、鎌倉にはいま、尊氏の子の千寿王が、足利義詮となって、京都から降って来ているという。――そしてまわりには、上杉憲顕や細川和氏やまた高ノ重茂らがつき添って、関東地方をかため、とくに斯波家長は、東国における実戦では経験第一の者なので、利根川へも彼が大将としてのぞんでいるとのことだった。
さすが、顕家の麾下も、ここでは苦戦の足ぶみを余儀なくされた。――いつか冬にも入り、坂東平野の氷雪になやまされることも、たびたびだった。
が、十二月十三日の決死の渡河は成功して、ついに、敵の堅陣をけちらし、十六日には、長駆、もう武蔵野の西を駈けつつ、
「はや、鎌倉はそこ」
と、先を争っていた。
府内における、小壺、前浜、腰越の合戦などは、二十三、四日頃のことである。――敵の斯波家長は、杉本城で自刃し、足利義詮以下は、三浦方面へ、敗走した。