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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens
どこから来たのかしれませんが」
「能登は帰ったのか」
「帰っていません」
「ならば、能登の留守を、いちばい堅固にと、島後から加勢の兵が渡ってきたにちがいあるまい。金若」
「は」
「めったに柵外へ出て、兵の眼の中をうろつくなよ。……お、それよりは、きのうそちに託したものは、いかがいたした」
「はい。権大ノお局さまと、三位ノ廉子さまへ、また侍者のお二人へも、それぞれ、そっとお手わたししておきました」
「それ聞いて安堵した。あとは明夜を待つばかり。……金若も身を休めておくがよいぞ」
それは帝自身へいっていることでもあった。とかくこの両三日は夜半の物音にもすぐ眼がさめる。すると果てない将来へ、天下再建の構想へ、そのうつらうつらがつづいてしまう。
愚である。
と、帝は、自己妄想の愚は、ご承知だった。
難なく、脱島が成功すればだが、ふとすれば、死を招くかもわからない。一切が水泡に帰し終るかもしれないのだ。
その公算もかなり多い。
しかしながら、やむにやまれぬものが、身を鬼にしているのだと、観ておられた。
ここの御所からは、別府湾をへだてて、海士郡の山波がすぐ眉に迫ってくる。