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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens
一、大塔ノ宮ノ御事
先ニハ、捕ヘ奉レトノ沙汰、再三ニ及ブモ向後ニオイテハ、須ラク、誅戮シ奉ルモ、構ヒナシ
諸寺諸山、非職員ノ住侶、又、タトヘ凡下放埒、与党賊徒ノ輩タリトモ、忠節ノ実ヲイタス有ラバ、賞トシテ、近江国麻生ノ庄ヲ宛テ賜ハルベキ也
二、楠木兵衛尉ノ事
右、正成ノ首、持参ノ者ニオイテハ、丹後国船井ノ庄ヲ宛テ行ハルベシ
賞ハ、卑賤ニ依ラズ、一切仔細ニカカハラザルコト、同前ナリ
おそらくこの公示は、各地に建てられたものだろうが、朝夕、金剛山をすぐ目の前にしている河内石川、錦織、三日市あたりの住民には、いちばい生々しい実感が持たれたにちがいない。中には天ッぺんの熟柿を見るように、いつまで仰向いている顔もここにはあった。
「やっ、親分。もしや大蔵親分じゃございませんか」
「えっ?」
気をとられていた高札から眼をふりむけて、忍ノ大蔵は、怒ッたように呟いた。
「なんだ、権三じゃねえか。ええい、人をびッくりさせやがる」
そこの辻を、石川河原の方へ下がった所に、戦場が生んだ“俄か市”がこつねんと菌みたいに簇生していた。
生きるにたくましい散所民の男女が、寄手の雑兵目あてにムシロ小屋や野天売りを張っているもので、もしここも合戦の場となれば、風のごとく小屋をたたみ、またどこかの野ヅラに一夜で市を開いていた――。