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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens
五所の秘水
とよばれる水みちと、
七ツ井戸
の給水源があるのだとは、敵味方なくいわれていた。
事実、半年ちかくも山上にたてこもりながら、すこしも楠木勢におとろえがみえないのは、その水ノ手の確保にあると、寄手方では観察している。
すでに、力攻めでは、何千人もの死傷を出して、攻めあぐねのかたちだった。ところがこの二月一日、寄手は初めての凱歌をあげた。
楠木勢の前線のかなめ、すなわち金剛山の中腹の堅城、上赤坂ノ城を攻めつぶし、牙の一つを抜いたのだった。
これは、忍をつかって、上赤坂の水ノ手を断ったのが成功したものである。……で、次の千早城へもまた、同じ作戦が、寄手によって考えられぬことはない。
「どれ、行こうか。権三」
「ど、どこへです親分」
「だまってついて来い。……こいつはおれが預かっとくぜ」
「じょ、じょうだんを」
「てめえこそ腹をすえろよ。さっきの高札場で、てめえはあれを読んでいなかったのか。楠木の首一ツには、一躍、地頭さまにもなれるほどな恩賞がかかッてるんだ。そんな運を取り逃がして、何の生き効いがあるもんかよ」
権三の異名は木菟といった。いつも昼間が眩しそうで野呂ッとしている顔つきは、いっこう忍ノ者らしくない。