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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens

Aozora Bunko

「たのもう!」

の声が、つづいていた。

「ちッ」

時親は自分で立った。矮小で骨ばッた老人なのに、ひどく力のある足ぶみで、あらあらと玄関に顔を出した。

「や」

あるじと見て、急にうやうやしく腰をまげた武将がそこにあった。うしろの遠くには一小隊の兵をひかえさせている。

「何だね、御用は」

「は。てまえは千早攻めのいくさ奉行長崎四郎左衛門ノ尉殿の旗もとで、足立源五と申す者にござりまするが」

「こないだも来たな、岩切勘左衛門とかいうものが」

「は」

「なにしに来るのだえ? そうたびたび」

「主命をうけまして」

「へえ」

「毛利時親さまは、あなたさまで」

「ちがうよ」

「え?」

「ちがう、ちがう」

「では、大江時親さまで」

「どっちでもない」

「お戯れを」

「ほんとだ、そこの軒桁を仰ぐがいい。わたしは吐雲斎だ、吐雲居士という山家おやじにすぎんのだ」

なるほど軒の木額には、

吐雲窟

の三字が読まれる。

だが足立源五は、さきにここへ使いして追払われた同僚から、あいては稀代な偏窟者だぞと、あらかじめ脅されてきたことである。翻弄にあまんじる用意は顔にできていた。

「でも、ご老体は、この家のおあるじにちがいありませぬ」