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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens
開けてよいかの」
「あ。少々の間、ご猶予を」
「いや藤夜叉どののことなら、お案じあるな。師直がようなだめて進ぜる」
右馬介が倉皇と立去ったあと、入れかわりに、師直はのッそり藤夜叉のそばへ来て、むざんな、白い襟あしの俯っ伏せを見おろしていた。
「…………」
そして遠くに放ッてある懐剣の白刃を拾い、それを鞘に、いちど外へ出て行った。
廊の端れにひかえていた郎党に何か耳打ちして、どこかへ走らせ、元の小部屋へ返ってくると、こんどは、おっとり坐りこんだ。その分厚な体温を馴れ馴れとずり寄せて、彼女の背をなでるのだった。
「さ……藤どの。ここはひとまず退がんなさい。お身さまにとって、この師直は、たれよりもよい御相談相手かと、うぬぼれておる。悪いようには計らわぬ」
「……どうぞ、もう」
「はははは。放っておけとか。だがお身さまはいま何とここで咽びくやんでおられたか。殿高氏さまへ、この胸が、この真実が、とどかずには死ぬにも死にきれぬと、取り乱していたであろうがの」
「…………」
「ごもっともだ! そのお口惜しさはようわかる。殿とのお契りも、十一年のむかしといえば、お身さまもまだ十五、六か。