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しほんたいへいき
私本太平記(四)
吉川 英治
Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens
ついと、高時は横を向く。
「茂時」
それから、また、
「道誉」
と、名ざしのもとに、
「ふたりして、飛脚状を収め、また委細を、早打ちの武士どもから、訊きとっておけ。……わしは、こうしていてもまだ船の上に揺られているような心地だ。ちと、ねむっておきたい」
茂時と道誉が、そこを立つまに、女房たちが、大きなお枕をささげて来て、高時の青い頭の下にあてがった。そして彼のみを、そっと残して、やがてみな、退がって行った。
高時は他愛がない。頭もまろいし、大きなぼんちみたいな寝相である。このままの人ならば、天真爛漫といっていい。
が、あいにく北条家九代の嫡と生れ、天下の執権という、彼に似合わない政権と武権を双手にしていた。――いや、似合わないとは、彼も彼の肉親も、思いはしない。すべて彼を愛し、彼を利用している周囲には、一こうにその自覚もないことが、いちばいな悲劇であった。絢爛豪奢な喜劇でもあった。
すでに、嘉暦(六年前)のころ。
高時はいちど、執権職を退いて、職は金沢貞顕にゆずり、またまもなく、赤橋守時に代っていたはずだった。
そのころの高時は、世に“うつつなき人”といわれたほど、しばしば、狂癲の持病を発作したり、キャキャとはしゃぐと、よく涎を垂らしたりしたので、彼を盲愛する生母の覚海尼公も、後見の長崎円喜らも、たまりかね