Japanese reading practice

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しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens

Aozora Bunko

と、しいて白く笑った。

「いやお顔いろもすぐれず、ほどなく四更(夜明け)にもなりましょう。暁とともに、ここは御発足の手筈にございますが」

「おおよ、それでいい」

「しかし時刻をのばしても、充分お寝みをとって御出馬のほうがおよろしくありますまいか」

「なんの、いらぬ斟酌だ。少々常より酒量を過ごしたまでのこと。それよりはの、師直」

「はっ」

「いっそその辺をひとめぐり歩いて来る。だが、尾いて来るなよ。そちばかりでなく、たれも来ぬように、ほどよい所で見張っていてくれ」

高氏はもう先へ歩いていたのである。師直は追わなかった。跪いたままでそれを見送っている。彼には、とっさに分ったのだ。やがて、にゅうっと、髯だらけな中の目鼻が苦笑をたたえ出した。

――高氏の影は、十一年前の記憶をたどりながら、大庭を避けて、梅の木の多い方へとさまよっていた。だが、うすら覚えも残っていず、遠いあの夜の、白々とした花だの春の朧が思い出されるのみだった。そして今夜は、匂う風さえもない。暗い梅若葉の蔭に、毛虫であろうか、夜光虫のような物が、かそけく、露の音に交じって光るだけだった。

「……。お」