Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

しほんたいへいき

私本太平記(四)

吉川 英治

Read 私本太平記(四) (しほんたいへいき) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 229,324 characters · 458 screens

Aozora Bunko

「…………」

「それは、道誉の罠に落ちた過ちではあったろう。が、なぜいいつけを破って都へなどさまよい出たか。ああ! ……いやよそう、いうのもおろかだ」

「もしッ……」と藤夜叉は叫びかけて泣きくずれた。そのまま、地の底へ沈みこむようなもがきをしばらくしていたが「いいえ、いいえ!」と、自分を打つように、その黒髪を掻き上げて――

「言ってください。お胸のいえるまで仰っしゃってください。そのことは、私から言いたかったのに、言えないでいたんですっ。……殿っ」

と、高氏の足もとへすがりついた。それには巨木も揺れそうな必死の訴えと悔いがわかった。しかし高氏は恐れるように、その藤夜叉を力まかせに蹴とばした。そして、たまらない自己嫌厭の中に吹きくるまれていた。

女を挟んで道誉と争いたくなかったし、また道誉という男を滲ませて藤夜叉を見たくもなかった。つい、口にしたのが浅ましかった思いなのだ。どこかでは、打消しえない潔癖が女の肉体を憎み、そのくせ、あわれで、ふびんで、ならないのである。それが足蹴になっていたのだった。

「もっと、仰っしゃって!」

彼女はまたからみついた。そして嵐のような烈しさで、せがんだ。