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ちちぶのみやでんかにじしてやりがたけへ
秩父宮殿下に侍して槍ヶ岳へ
木暮 理太郎
Read 秩父宮殿下に侍して槍ヶ岳へ (ちちぶのみやでんかにじしてやりがたけへ) by 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 9,876 characters · 20 screens
昨日の道を大天井岳の中腹まで戻って、左に岐れて岩崖の横をうねうねと搦みながら、下るともなく下って行く。牛首岳を通る頃から路は尾根の南側に移って、滑り易い草地を行くようになる。此あたりから高瀬の谷がよく見渡された。霧が霽れたのではない、低い所へ来た為である。赤岩岳は北の半面をそぎ取ったようにボロボロの赤い岩壁を露出している。殿下は夫を御覧になると槇君に「こんな岩でも登れますか」とお尋ねになる。「こんな岩は駄目であります」とお答えするのをお聞きになって、「そうでしょうね」とお首肯になった。
やがて此尾根の最低所である二千五百米の鞍部に達した。これからまた足場の悪い登りを四百米近くも続けて、大槍の小屋を左下に眺め、最後に一の隆起を踰えると、行手に殺生小屋が現れる。小屋の前には大勢の人が立って此方を見て居る。殿下も御一緒になってオーホーと声をかけると向うからも同じ返事をする。近づいて見ると夫は職員に引率された川越中学生十余名が、他の五、六名の人々と共に殿下を奉迎しているのであった。此頃から風が次第に吹き募って来た。
小屋は三間に五間程の大さで、頑丈に造ってある。