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ほだかだけやりがたけじゅうそうき
穂高岳槍ヶ岳縦走記
鵜殿 正雄
Read 穂高岳槍ヶ岳縦走記 (ほだかだけやりがたけじゅうそうき) by 鵜殿 正雄 (うどのまさお) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 8,443 characters · 17 screens
槍ヶ岳対穂高岳は、常陸山対梅ヶ谷というも、強ち無理はなかろう、前者の傲然屹っ立てる、後者の裕容迫らざるところ、よく似ている。あわれ、日本アルプスの重鎮、多士済々の穂高には、さすがの槍も三舎を避けねばなるまい、彼は穂高に対し、僅かにこれと抗すべき一、二峰派しているも、大天井や鷲羽に向う子分は、貧乏神以下、先ず概勢はこんなもの。
この絶大観に接した刹那、自分は覚えず恍惚として夢裡の人となった。元来神は、吾人の見る事の出来ぬ渺漠たるもの、果ては、広大無限、不可思議の宇宙を造り、その間には、日月星辰山川草木と幾多の潤色がしてある。今我が立てる処もまたその撰にもれぬ。人為では、とてもそんな真似は覚束ない、平生名利の巷に咆哮している時は、かかる念慮は起らない、が一朝塵界を脱して一万尺以上もある天上に来ると、吾人の精神状態は従って変ると見える。これ畢竟神の片影なる穂高ちょう、理想的巨人の御陰だろうとしみじみ感ぜられた。
標高千米突内外の筑波や箱根では、麓で天候を予想して登っても、大なる失策はなかろう、が三千米突以上の高山となると、山麓で晴天の予想も、頂上へ行くとがらりかわり、折々雲霧に見舞われる、これによると、今回のように度々御幕がかかるのが、かえって嵩高に感ぜられる。