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こうばいのきゃく
紅梅の客
吉川 英治
Read 紅梅の客 (こうばいのきゃく) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 7,574 characters · 15 screens
ずいぶん噂になり怪しまれもしたことだろう。しまいに事情もわかって、とくに楼主の情で、姉妹として、いつでも揚げ代なしに、会うことがゆるされ、おたがいに、薄命な身上をなぐさめあっていたという。それほどに、およねちゃんの以後の生い立も非運な経路であったものらしい。
だからもとよりこれというほどな教養のあるひとではなかったろうが、この瀬川花魁は、逆境の中から自然にえたような廓に似合わしくない諦観をどこかに持っていたそうである。古風といえばまことに古風な花魁で、一休禅師の敵媚を思わすほどだが、鏡台、長火鉢、赤い座ぶとんなどの艶めき匂う自分の部屋のすみに、小さい観音像をおいて、朝夕おがんでいたという。大きく結い上げた立兵庫の黒髪に金糸を垂らし、紫かの子の白い襟元に、白粉窶れをのぞかせている苦界の姿は何ともいじらしいひとに見えたという。
こういう花魁なので、遊客へも仏心で接していたと言っては言い方としておかしいだろうか。とにかく、よく客につとめるので楼一番のお職ではあった。だがまた深入りする客や若い遊蕩児には意見をしたりしたそうである。そして自分の不幸も不幸としないで愉しむことに心がけ、女の習い事を何くれとなく日常励んでいたという。